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※社会人石垣さんと、大学生山口くん。
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電車に揺られながら、ぼんやりと天井を見上げた。
もう外は真っ暗や。俺が行ったって、何をしたれるわけでもないんやけど。そんでも、例えば飯つくったり、洗濯したり、そう言うのくらいは出来るやろ。そんなことを思うて、自分を奮い立たせる。
大阪で独り暮らしになって、もう大分長い。あいつも独り暮らしすると知った時に、…ほんまは言おうかと思うた。一緒に住まへんか、って。ヤマの通う大学を考えれば、そないこと出来へんくらい分かっとるから言わんかったけど。
ごとん。ごとん。ごとん。車体を揺らす音に合わせて、指を組み替える。スマホに手が伸びて、やけど優先席が近かったから止めといた。
ヤマがインフルで寝込んどる。って、俺に教えてくれたんは井原や。ヤマは、自分からはそないこと、言うてくれへん。…俺には。
勿論、それがあいつなりの気遣いやって知っとる。中々逢われへん俺に、心配かけたないから、って。…ヤマは、辛いことは俺には隠す。哀しいことも、落ち込んでも。
俺、不甲斐ないなあ。ため息を吐いて、背を丸めた。仕事用のスーツと、皮の鞄が眼に入る。俺の格好は、仕事着のまんまや。井原から連絡貰ろて、居ても立ってもいられんくて、仕事が終わって飛び乗ってもうた電車。
ヤマに、最後に逢ったんは、まだ紅葉も始まっとらんかった頃。俺には、極端に甘えてくれへんあいつとは、ワンシーズンに一度逢うのが暗黙の了解やった。それ以上は、断られる。電話もメールも最小限。せやから、次に逢うのは冬やな、って呟いた。それに、無言であいつも、頷いとった。感情の見えにくい、穏やかな顔で。
寂しい、て思うんは俺だけやろうか。俺の想いは、迷惑なんやろうか。澱のように溜まって行く不安は、そろそろ見過ごせへん。そのくらいには、膨らんでもうて。
…せやから、これは賭けやった。きっと、寝込んどるヤマは、いつもよりかも余裕がないやろう。病気の時には、気持ちも感情も剥きだしになる。普段、気ぃ張って気ぃ遣うあいつでも、きっと。
急に現れた俺に、熱で朦朧としとるやろうあいつは、どない顔をするやろうか。迷惑な顔?困った様子?…もし、そうなら、俺はこの気持ちに蓋をしよう。冬に逢う約束も、反故にしよう。段々と離れて、お互いにええ想い出として。
…でも。そんでも。もし。もしもあいつが、俺を見て。剥きだしの感情で、嬉しいって笑うてくれたら。俺に、逢いたかったと縋ってくれたら。
そんときは、もう俺も我慢せん。あいつが遠慮しようが困ろうが、通勤時間がどうなろうが。あいつの傍にずっと居る。居座ってでも、傍に居る。
祈るように、眼を閉じた。あいつの住む駅までは、あと少し。ああ、せやから。神様が、居るならどうか。
俺を見て。あいつが俺に。…逢いたかったと、笑うて言うてくれますように。
(もしそうなら。今度こそ、俺はあいつを躊躇いなく抱きしめられるから)