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※5/4超全ケイで配りましたペーパーのみどやま♀ssです。
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山口くんは、抱き心地がええ。
「…それって、言外にデブて言うてへん?」
「言うてへんわ」
腕んなかで、口を尖らしてくる山口くんは無視して、ぎゅうと抱きしめた。病気の所為で、男から女になってもうた山口くん。…男やった時も、なんとなく柔こそなイメージがあったことを、なんとなく思い出す。もう、『思い出す』というくらいには、昔のことになってもうた、男やった頃の山口くん。
「なんや、別に柔こい訳や無かったやろうになあ」
「なにが?」
頭だけで思うてたことは、知らずに口から漏れ出てもうた。ボクの言葉が聞こえたらしい山口くんが、今度は不思議そうに、腕んなかからボクを見上げてくる。…ほんまに山口くんは、怒りが持続せぇへんなァ。まあ、ほんまに怒っとった訳でもないんやろうけど。
「…別にィ?」
…なんとなく。男やった頃のキミを考えてました、と言い辛くて。話をはぐらかすように、そんだけ言うて、彼女の首筋に顔を埋める。あったかい。
「なんやそれ」
山口くんは、別に疑問にも、気を害した様子もないようや。苦笑するように笑うて、ボクの頭を撫ぜてくれる。…この感触が、ボクは好きやった。彼女が、髪を撫ぜてくれる指先。
こんなん、別に山口くんには言わんけど。きっと、彼女にはもう、ばれとるやろう。
…男でも、女性になっても、山口くんは変わらんかった。笑う顔も、困る仕草も、ボクに対する態度さえ。なにがどうあろうが、キミはキミやった。
せやから、ボクは。
「キミが好きやと、想うてただけや」
呟くように、そう告げると。驚いたような気配がして、それから。
「俺も、御堂筋くんのこと好きやで」
優しい声が、降って来て。それを噛み締めるように、彼女の首筋で、眼を閉じた。
(ああ、これやからボクは、キミが好きや)
※【山口くんは横たわったままで、大切な友の夢を見ています。このまま眠り続け、姿・形は変わりません。想い人に触れられることで呪いが解け、目を覚まします。#ゆめのなか https://shindanmaker.com/534506】
という診断を見て、やりたくなったみどやま
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夢を見てた。
夢んなかで、これは夢やと知っていた。見慣れた京伏自競部の部室。そこに石垣さんがおって、ノブがおった。辻さんも井原さんも、安さんもおって、小鞠もおる。木利屋も船津もおって、俺に向かって手を差し出してきてた。『ヤマ、なにやっとんのや。ほら、早く』。石垣さんがそう言うて、笑いながら手招きをする。一様に笑うみんな。それに、俺もつられて笑いながら、足を踏み出す。…そこで、気づいた。
みんな居るなか、彼だけがおらん。…御堂筋くん。
あぁ、夢にもでてきてくれへんのかぁ。少しだけ哀しくなって、踏み出した足を、止めた。『どないしたん、ヤマ。早よおいで』。その声を、聞き流しながらそのまま、ぼんやりと立ち竦む。
気づくと、石垣さんたちの姿は消えていた。いつの間に、部室から出ていったのか。それとも、夢からフェードアウトしたんか。何も分からんまんま、たった一人残された部室は、輪郭さえ危うい。
ぼやぼやと溶けていく部室の残骸んなかで。ああそうやな、って、夢んなかの俺は、そう納得しとった。なにが『そう』なんかもわからん。でも、そうやと思った。
御堂筋くんに逢いたいなあ。そんなことを思いながら、も一度、一歩を踏み出した。もう床ですらない、その感触も無い場所を踏みしめて。
ドアの、あったところに手を、伸ばす。みんなは、こっから出て行ってもうたんやろうか。さっき、早くて言われた時に、ちゃんと追いかければよかった。…なんで、あそこで聞き流してもうたんやろ、俺。
取り止めもなく、そないことを思いながら。ドアやったところに触れて、ゆっくりと押してみた。開いとるのか、それとも俺が突き抜けてんのか。どっちにしても、その先に行ける感覚。
先に、進もうとして。不意に。…頬に、あったかいもんが触れた、気がした。驚いて、一瞬目を瞑ってしまう。目の奥に、明るいひかりが小さく、弾ける。
それが収まった頃に、ゆっくりと、瞼を開けた。眩しい。いっぺんに入り込んできた眩いひかりに、目が慣れんくて。慌てて目ぇを、瞑ってもうた。細かく瞬きをして、もう一度目を、開く。
…御堂筋くんの顔が、目の前にあった。
息すら届きそうな近くに、見開いて四白眼になった、彼の顔。驚いてもええ筈やったのに、…何故か、俺は安心した。自然に顔が緩んで、笑うてしまう。
あぁ、ここにおったんやな、御堂筋くん。俺、めっちゃ逢いたかったんよ。声に出したいのに、息しか漏れん。そんでも嬉しくって、彼に笑うた。頭の芯が、まだ眠っとるようにぼやぼやとぼやけたまんまや。
そない、俺に。…見開いてた御堂筋くんの顔が、微かに、やけど確かに小さく、歪んだ。ぼたり、と。上から降ってくる水滴。
俺の頬に触れてたんは、御堂筋くんの指やと、漸く気づいた。小さく震えとる、彼の指。…なんで、泣いとるの?そう口にしたはずの声は、喉奥で掠れる。そんでも、彼には伝わったように。
「…うるさいわ。キミが、キミィが、目ぇ覚まさんからやろォ…!」
いつも通りの口調は、そんでも、指と同じように語尾の辺りで小さく、震えた。ぼろりとまた、その眼から水滴をこぼしながら。御堂筋くんが、そのまま俺に被さってくる。俺の顔の横に置かれた両腕。御堂筋くんの顔が、触れるくらいに近くに来とって。
…まるで、抱き締めるみたいやと。未だぼんやりとする頭の隅で、場違いに想うて。早いリズムの、心臓の音が、心地良かった。
(…俺が。三日三晩眠ったまんまやったことを聞いたんは、それからもう少しし手からやった)
「山口くぅんは、ボクのこと、すきィ?」
瞳孔でも開いてとるように、見開いて真っ黒い眼ぇが、目の前よりも近くに迫った。
俺の首に、彼の指が意思を持って巻かれる。ぎゅ、と軽く力が籠もって、ああこれは本気やなあ、と頭の片隅で思う。
『愛してるって言わなきゃ殺す』って、言葉が不意に掠った。なんやったっけ。歌の歌詞?題名?それとも、何かの本やったか。どっちにしても、随分前やと思うけど。俺も、このフレーズしか知らんし。なんや、ここだけ有名やんな。
今の状況って、まさにそれちゃうか。思わず笑うてしまいながら、間近にある、彼の頭を軽く撫ぜる。御堂筋くんは、微動だにせんと。薄っすら笑いながら、俺を見ていた。
…別に、こんなんせんたって、ちゃんと好きなんやけどなぁ。伝えとるつもりでもあるんやけど、どうやったら、ちゃんと伝えられんのかな。
「好きやで、大好きやわ」
言いながら。頭を撫ぜる手は止めんまんまで、空いとる方の手ぇで緩く抱きしめる。俺を見詰める真っ黒い眼に、感情は見えん。こっちを探るように、見開かれた眼。
…そない彼が、どうしようもなく愛惜しかった。髪を撫ぜる手を止めて、両腕でぎゅう、と抱きしめる。…動揺したように、首に回る御堂筋くんの指が、少しだけ緩んだ。
「…山口くん、ボク本気やで?なんで逃げへんの」
感情見えへんかった真っ黒い眼が、心持ち揺れとるようや。まるで、俺に拒否でもしてほしかったみたいに、か細い声が、ぽつりと零す。…え、なんでって。
「御堂筋くんのことが好きやから」
想うたことを、正直に告げた。抱きしめてた細い身体を少し離して、顔を見つめる。驚いたようにその真っ黒い眼が見開かれて、それから戸惑ったように逸らされる。
それが、少しだけ可笑しくて。…それから何故だか切なくなって、そんでもやっぱり愛惜しいくて。目ぇを細めて、彼に笑う。一瞬、くしゃりと彼の顔が歪んで。…それから、俺の肩に、彼の顔が伏せられた。首に回された指は、いつの間にか外れとった。
「…そんなん言うてたら、いつか、ほんまに殺されるかもしれんよ」
「俺さ、お前にやったら殺されてもええんやけど」
そう言うたら、俺の肩に顔を埋めたまんまで。そんなこと言いなや、って、泣いとるような彼の声が聴こえた。
「…せやけど、お前が捕まるようなことになったらいややし。これからもお前の傍に居りたいから、俺やっぱり生きてたいなあ」
「…当たり前や」
※社会人石垣さんと、大学生山口くん。
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電車に揺られながら、ぼんやりと天井を見上げた。
もう外は真っ暗や。俺が行ったって、何をしたれるわけでもないんやけど。そんでも、例えば飯つくったり、洗濯したり、そう言うのくらいは出来るやろ。そんなことを思うて、自分を奮い立たせる。
大阪で独り暮らしになって、もう大分長い。あいつも独り暮らしすると知った時に、…ほんまは言おうかと思うた。一緒に住まへんか、って。ヤマの通う大学を考えれば、そないこと出来へんくらい分かっとるから言わんかったけど。
ごとん。ごとん。ごとん。車体を揺らす音に合わせて、指を組み替える。スマホに手が伸びて、やけど優先席が近かったから止めといた。
ヤマがインフルで寝込んどる。って、俺に教えてくれたんは井原や。ヤマは、自分からはそないこと、言うてくれへん。…俺には。
勿論、それがあいつなりの気遣いやって知っとる。中々逢われへん俺に、心配かけたないから、って。…ヤマは、辛いことは俺には隠す。哀しいことも、落ち込んでも。
俺、不甲斐ないなあ。ため息を吐いて、背を丸めた。仕事用のスーツと、皮の鞄が眼に入る。俺の格好は、仕事着のまんまや。井原から連絡貰ろて、居ても立ってもいられんくて、仕事が終わって飛び乗ってもうた電車。
ヤマに、最後に逢ったんは、まだ紅葉も始まっとらんかった頃。俺には、極端に甘えてくれへんあいつとは、ワンシーズンに一度逢うのが暗黙の了解やった。それ以上は、断られる。電話もメールも最小限。せやから、次に逢うのは冬やな、って呟いた。それに、無言であいつも、頷いとった。感情の見えにくい、穏やかな顔で。
寂しい、て思うんは俺だけやろうか。俺の想いは、迷惑なんやろうか。澱のように溜まって行く不安は、そろそろ見過ごせへん。そのくらいには、膨らんでもうて。
…せやから、これは賭けやった。きっと、寝込んどるヤマは、いつもよりかも余裕がないやろう。病気の時には、気持ちも感情も剥きだしになる。普段、気ぃ張って気ぃ遣うあいつでも、きっと。
急に現れた俺に、熱で朦朧としとるやろうあいつは、どない顔をするやろうか。迷惑な顔?困った様子?…もし、そうなら、俺はこの気持ちに蓋をしよう。冬に逢う約束も、反故にしよう。段々と離れて、お互いにええ想い出として。
…でも。そんでも。もし。もしもあいつが、俺を見て。剥きだしの感情で、嬉しいって笑うてくれたら。俺に、逢いたかったと縋ってくれたら。
そんときは、もう俺も我慢せん。あいつが遠慮しようが困ろうが、通勤時間がどうなろうが。あいつの傍にずっと居る。居座ってでも、傍に居る。
祈るように、眼を閉じた。あいつの住む駅までは、あと少し。ああ、せやから。神様が、居るならどうか。
俺を見て。あいつが俺に。…逢いたかったと、笑うて言うてくれますように。
(もしそうなら。今度こそ、俺はあいつを躊躇いなく抱きしめられるから)
どうやら。ヤマと御堂筋くんは、付き合うてるらしい(まじか)。
「だぁ~れぇ~だ~ァ」
ゆらゆらと。揺れるような声が、部室に響いた。ちょっとしたホラーや。高いんか低いんか分からんような、それでいて異様に楽し気な声。
…ちらりと、横目で声のした方を見る。顔全部を向けてガン見、なんて死んでも出来ひん。そろり、と伺うように視線を這わせれば。同じように、横目で見やっとる井原さんと眼が合うた。途端に漏れる、井原さんの諦めたよなため息に、思わず笑うてしまう。
ばれんように、這わせた目線の先には。…声と同じく楽しそうに、真っ黒い眼ぇを細めて。大きな口の端を上げて、並びの揃った歯ぁをかちかち言わせながら。部室に並べられとる備え付けのベンチに腰かけた、ヤマの目を。後ろっからその手で覆っとる、我らがエースの姿。…なんなんやろう、この光景。
多分、俺がやられたら。座ってたって直立不動で立ち上がってまうやろう。せやって怖いし!意味も意図も分からんし!
そんでも、実際にそれをやられとる、目の前の俺の親友は。俺より大人しくって、控えめで。どっちか言うたら、怖がりなビビリやった筈なのに。少なくとも、御堂筋くんには。…今まで、俺よりも怯えて、苦手としとった筈、なんに。
御堂筋くんのその行動に、怖がることも怯えることもなく。寧ろ楽しそうに、ふわりと笑う。目ぇも、眉すらも、その手に隠れて見えんのに。あの太目の眉をちょお下げて笑う、困ったようにはにかんで笑うその様が、手に取るように分かった。
「御堂筋くんやろ」
「ぶー」
やらかい声が、彼の名前を呼んだ。途端に、御堂筋くんが口を尖らして指を離す。その顔は、やっぱり楽しそうな笑顔や。
「ざぁんねん、あきらくんでしたー」
「えー、なんやそれぇ」
あかん、意味が分からん!頭を抱えそうになって、なんとか押し止まる。聞いてたっていうのがばれたら、なんやあかん気ぃがひしひしとするし。…いや、聞くも何も、丸聞こえなんやけどな!?
部内の何とも言えん空気なんて、なんのその。まるで気づいてへんように、ヤマを覗き込んで笑う御堂筋くんに、ヤマも笑うて返す。後ろから抱きつくような体勢になった御堂筋くんの、その頭をヤマが撫ぜた。その周辺だけ花でも散ってそうにピンクい雰囲気。
「そんなら、あきらくんて言えばよかったんか、俺」
「せやぁ」
「そうかぁ、そんなら今度からそうしようかなあ」
「ていうか遅いわァ。そんなんボクから言わんでも、そうせなあかんやろォ」
…御堂筋くんの口調が、なんやいつもと同じようで違う気ぃがすんのは、気の所為やろうか。伸ばし気味の口調が、なんや、なんか、こう。…甘えとる気ぃが、すんのは。…気の所為やな!気の所為やんな!?
聞きたなくても聞こえてくる、2人の会話。…あかん、どんどんヒットポイント下がってくる。
「そうやな、ごめんなぁあきらくん」
「…別にええよォ?ただ、これからはそう呼ばなあかんからな」
御堂筋くんの体勢が、抱きつくような、から確実に抱きついとる、に変わった。ぎゅう、と音までしそうに長い腕が、ヤマを抱きしめて。まるで猫のように、その頭がヤマの肩から首筋に、摺り寄せられた。そない御堂筋くんを、目ぇを細めて。ヤマが、優しい手つきでゆっくりと撫ぜる。まるで愛惜しいものを見るような目線は、なんやこっちまで照れてまうようで。…あかん、なんやSAN値までごりごり削られてきた。
あー、あぁもう全力で突っ込みたい。ほんま、お前らが『なんやそれ』や!つかなんやその遣り取り!何処のばかっぷるや、なんでそんなんなってもうてるんですか御堂筋くん!そんなキャラやないでしょう!お前もやヤマ!一体いつからそない風になってもうたんや!
こころんなかで叫ぶように思った言葉は、どうやら井原さんもおんなじらしい。軽いため息に、そっちを見遣れば。…虚ろな眼ぇして俺を見る、井原さんとまたも眼が合うた。
曖昧な顔で、笑うてみせれば。虚ろな眼ぇのまんま、井原さんがちらりとあの2人を見遣る。
「…あいつら爆発せんかなあ」
しみじみと噛み締めるようなその言葉に。思わず、全力で頷きかけて。
「…あの2人居らんかったら、インハイ負けますよ」
「…せやなあ…」
現実を見て、呟いた言葉に。井原さんが、諦めたように肩を落とした。